セールスの2極化現象
これからのセールスは、一定のマニュアル化されたインサイドセールスと、高度スキルをもったフィールドセールスに2極化します。
新型コロナの影響もあり、日本国内でもインサイドセールスが増えてきました。
これは何を意味するかというと、「営業のカタログ化の促進」を意味します。
これまではマーケティング部門が獲得したリードを、営業・セールス担当がアポイントを取り、訪問し、販売をしていました。
一部の会社では、アポイント設定までをインサイドセールスが、それ以降をフィールドセールスが担当するように変化していました。そうすることで、セールスを効率化し、フィールドセールスの力を遺憾なく発揮してもらおうというわけです。
しかし、新型コロナウイルスの影響で、訪問を控える動きが出てきます。そうすると、資料を事前に送付し確認してもらう、WEB面談では説明と質疑応答が中心になります。つまり、マニュアルがあればセールススキルが求められなくなるのです。
しかし、高額なサービス購入となるとそうはいきません。顧客の実情にあわせたカスタマイズやロードマップの設計、関係者の巻き込みなど様々なスキルが求められます。
つまり、低単価(課長クラス以下が自分で決済できる金額50万円~100万円程度)まではマーケティング+インサイドセールスで進めていき、それ以上の金額のものはフィールドセールスが必要になるという形です。
ここで必要になるのが、デジタル環境でも顧客を動かしていく、クライアント・リーダーシップという力です。
クライアント・リーダーシップがないとどうなるか?
商談が前に進まない
クライアント・リーダーシップがないと、商談が前に進みません。顧客のペースに完全に合わせてしまうことになるので、営業がただの「機能に対する相談相手」に落ちてしまいます。
結果、商談を営業がリードすることができなくなってしまいます。
キャンセル・クレームが増える
せっかく購入、契約いただいても、キャンセルになったり、クレームになったり、ということがありますよね。
お客様が「気軽に」買うことで、一瞬売上が上がっても、その後にキャンセルやクレームになってしまっては意味がありません。SaaSやサブスクリプションであれば、どれだけ継続してくれるかが重要ですから、そうならないための手を打つ必要があります。
クライアント・リーダーシップがあることで、「購入プロセスにおける納得度」と「購入後の必要なアクション」が明確になります。そのため、納得した契約、そして自己責任での利用が進んでいきます。
フィールドセールスに必要なクライアント・リーダーシップ
フィールドセールスには、これまで以上に顧客をリードし、共に最適な解を探す力が求められます。これがクライアント・リーダーシップです。クライアント・リーダーシップは、顧客を最適な状態に導く力とイメージしていただければと思います。
要素1 問題・課題を構造化する力
顧客の抱える問題、課題は複雑です。それは特定の何かが原因で、それを取り除けばよい、というような単純な因果関係ではなく、ビジネス環境、プロダクト、競合の動き、従業員のスキル、社内のルール等が絡み合っています。
そうした複雑な状況の構造を把握し、シンプルに図示する力が求められます。特にデジタルコミュニケーションでは、共通の絵があることで認識や単語をすり合わせることが容易になります。
セールスが図示したものが、その後のコミュニケーション活動のキーピクチャーとなります。常にそこに立ち戻り、会話がなされるというイメージです。
要素2 ロードマップを引く力
クライアントの問題、課題を解決するために、どのようなステップを踏んでいくのか、どの程度の時間をかけるのか、途中どんな困難や障害があるのか、などを把握し、適切な道筋を示す力が必要です。
顧客が料金を支払うのは、問題・課題が解決されるだろう、というイメージや確信を持てるからです。セールス活動では、問題・課題が解決にいたるプロセスを顧客にイメージしていただく必要があります。
要素3 関係者の登場を演出する力
顧客の問題・課題を解決するためには、様々な方の力を借りる必要があります。自社の製品開発、エンジニア、法務、協力を頂いている会社の社員様など、登場してほしい人物や部門は少なくありません。
また、自社側の協力はもちろんのこと、顧客側の関係者の力も借りなければなりません。顧客のユーザー部門、購買部門、管理部門などが関係してきます。
こうした様々な関係者を、その都度必要に応じて依頼するのではなく、事前にロードマップに基づいて依頼をしておく必要があります。
大事なことは、ただ関係者を登場させるだけでなく、その人たちの登場で物語が前に進んでいくことです。ですから、登場の必然性、演じてもらう役割を考えるといった、演出家のような力が必要です。
プロジェクトの完結にむけたシナリオを考え、どんなドラマが起きるかを演出するようなイメージを持ち、動かしていきましょう。
要素4 ファシリテーションの力
ここまで、構造化、ロードマップ作成、演出と3つのスキルを紹介してきましたが、その根底にあるといっていいものがファシリテーションの力です。
ファシリテーションとは、多様な意見を引き出し、吟味し、統合してベストな案を引き出すためのスキルです。対立意見を妥協させるのではなく、対立している人たちも納得する両立案を出していくこと、そしてそうした案を通じて人の気持ちを動かしていくスキルです。
このスキルがないと、どうなるでしょう。
ファシリテーションの力がないと、情報の多面性や情報の奥深さは相手次第になってしまいます。ですから会社を動かすような構造的な状況把握は難しいでしょう。
実際、多くの営業が、目の前の担当者から聞いた情報に振り回され、キーパーソンをはじめとする他の社員の意見に対応できないという場面がよく見られます。提案の前段階となる情報の収集、精査、構造化のためには、多様な意見や情報収集をする必要があるのです。
また、ファシリテーションの力がないと、ロードマップ作成やシナリオ作成も、一方的なものになってしまいます。社内の関係者も、顧客側の関係者も、営業の意図通りに動くようなものではありません。皆さんにはそれぞれ個別の事情があるのです。
その個別事情を捉え、最適な動き方を考えるためにも、複数関係者の意見を、たとえ一時的な対立があろうとも、しっかりと引き出し、統合していくことが重要なのです。
ファシリテーションの力あることが、複雑なセールスをシンプルにし、前に進めていくためには必要不可欠であると言えます。
余談ですが、顧客社内の関係者を集めて、ディスカッションを開催し、そこからセールスをスタートさせるという方法はIBMをはじめとする会社で昔から取り入れられている方法です。
この方法の良いところは、関係者が皆、当事者になれるところです。関係者が、当事者として前を向き、協議をしながらよいよい状態を目指して進んでいきます。営業としての成果に繋がりやすいことはもちろん、実際にビジネスとして動かしていく際の協力関係が変わります。
要素5 デジタルリテラシー
あなたがソフトウェア等を扱っているなら絶対に、そうでなくとも最低限のデジタルリテラシーは必要です。
自社製品がどのようなロジックで動くのか、どのような効果があるのか、ユーザビリティは問題ないか、効率化するシステム的な仕組みはどの程度整っているか、ということが顧客から求められています。
昔のITセールスは、何か分からない時に、次回はエンジニアを連れていきます、と言って済ませている方もいましたが、それでは話になりません。
要素6 ビジネス分野の専門性
ITに限らず、営業・セールスパーソンに求められる専門性は日々高まっています。そこでの専門性とは、ただの経験の蓄積ではありません。他社事例や学術的な情報のキャッチアップが出来ており、プロフェッショナルとして適切な采配を振るうことができるという信頼にベースとなるものです。
ここでの専門性は、その分野に精通しているということです。ですから、自社商品に詳しい、というレベルではいけません。
何かしらの機械を提供する会社なら、そのマシンが動く仕組み、搭載されているソフトウェアの情報、マシンによる効率化の実情、適性投資額、投資回収に見込む期間など、専門的な知識に加えてビジネス上のジャッジメントができるレベルです。
要素7 コピーライティングのスキル
最後が、このコピーライティングスキルです。
テレビCMのようなカッコイイキャッチコピーをつくる必要はありません。また、マーケティングのコピーとも違います。
これは何かというと、「メールを通じて相手を動かす力」です。
デジタルでのミーティングの実施では、事前の時間調整が必要です。相手に考えてきて欲しいことも多いでしょう。とりあえず会って話しましょう、なんてことはできません。顧客先に訪問し、少し相手を待ち伏せして、、、ということもできません。
デジタルでの初対面ですと、雑談でラポールを取ることが難しくなります。以前は雑談でラポール形成をしている方もいましたが、これからは、ラポール形成ができているから雑談が可能、という状態です。
ミラーリング等のスキルは全く使い物になりません。
そんな状況下で必要なことが、デジタルコミュニケーションで人を動機づけ、動かす力なのです。
あくまでも「カッコイイコピーを書く」のではなく、人を動かすための文章校正、文章作成ができるスキルです。
他にも、基本的なセールスのスキルが不要なわけではありません。人間関係構築力、交渉におけるプレゼンスの発揮、プレゼンテーション力、傾聴力、企画提案力、クロージング力などが求められます。
ただし、高単価なサービス提供を目的としたセールスですから、こうしたスキルを全て自分一人で身に着けておく必要はありません。
最終的に組織として高い成果を上げるのであれば、7つの要素が揃っている状態を目指しましょう。
クライアント・リーダーシップのために必要なトレーニングとは
では、先に上げたようなクライアント・リーダーシップに必要な要素をレベルアップさせるためには、どのようなトレーニングが有効なのかをお伝えします。
ロジカルシンキング・クリティカルシンキング
まずは、ロジカルシンキング、クリティカルシンキングのスキルです。論理的な思考力、批判的な思考力と言われます。
まず基本となるのは、因果関係の発見、証拠の把握です。Aという結論を導くための、原因・理由の発見と、その証拠となる情報の把握。結論・原因・証拠は3点セットで押さえる必要があります。
そしてもう一つが対立軸の整理です。Aという結論に対立するもの、理由に対立するもの、証拠に対立するもの、それぞれどのようなものがあるかを見つける必要があります。
こうした思考力のトレーニングに必要なことは、自分で論理を組み立てるトレーニングと反駁のトレーニングです。
どんなことに対しても、3つ以上の結論を出す。それぞれに、原因・証拠を探す。対立概念を全て洗い出す。対立概念に対して、反論を考える。
地道ではありますが、この繰り返しでロジカルシンキング・クリティカルシンキングというものは鍛えられます。
例えば、読書をして、筆者の意見を要約する。その上で筆者の意見とは違う結論を考える。理由、証拠を探す。筆者からどんな反論が来るか考える。このようにして見ると、一回の読書に向き合う姿勢も変わります。
フレームワーク思考
フレームワーク思考とは、混然とした情報をフレームワークと呼ばれる枠組みで整理・分析するという考え方です。ロジカルシンキング・クリティカルシンキングの基礎力があることで有効に活用することができます。
フレームワーク思考の良いところは、枠に当てはめる経験を重ねることで、物事を構造化するクセがつく、構造化するときの軸や考え方が身についていくということです。
顧客と対話する際やファシリテーションの際も、情報を整理・構造化・発展させる時のネタ帳のような存在になります。
ただ、フレームワーク思考は万能ではありません。基礎となる思考力がなければ、表面的な情報を、書き分けているだけ、という状態になってしまいます。
くれぐれも、基礎となるロジカルシンキング・クリティカルシンキングの向上をさせながら、実施してください。
人間関係把握マップ
これは自社側・顧客側にとっての人間関係や保持スキルを整理するということです。
例えばお客様のAさん、Bさんはどんな人間関係なのか。上司部下、元同じ部署、昔は上司部下関係が逆だった、決裁権はあるが重要な相談は誰にするのか、ということを整理していきます。
できれば画像のように、関係性も記載するようにしてください。
これを整理することで、シナリオを作成する際に、誰にどう登場していただくのか、どうアプローチを進めていくのか、ということを考えていくことが可能になります。
もちろん、こうした情報を収集するためのインタビュースキルや関係性構築スキルは必須です。
ファシリテーショントレーニング
ファシリテーションの力とは、大別すると「意見や情報を引き出す力」と「情報を整理する力」、そして「情報を展開する力」に分けられます。
意見や情報を引き出す力は、質問の投げかけ力ともいえます。セールスに求められる質問スキルは、そのままファシリテーションにも活用できます。オープンクエスチョン、クローズクエスチョンなどのテクニックを磨くことが重要です。
整理する力については、ロジカルシンキング・クリティカルシンキング、フレームワーク思考のトレーニングで兼ねることができます。
情報を展開する力は、ロジカルシンキングをベースとした力です。一定の情報が整理されたら、「ということは、次に話すべきは○○ですね」「以上を前提とすると、××は無視して進めた方がいいですね」と次のアジェンダを設定していきます。
このような力はすべて、日々の会議や営業計画の作成等でも活用、トレーニングが可能です。
デジタルリテラシー
デジタルリテラシーを高めるためには、とにかく最新のデジタルツールを使ってみることです。昨今のデジタルツールは、そのほとんどがソフトウェアです。(電気屋で買わなくても、PCやスマートフォンでダウンロード可能)
お金を使わなくとも、まずは使ってみるということが重要です。
また、デジタルツールに関するニュースサイトも多くありますので、それらを参考にしながら、意識的に新しい情報に触れていくようにしましょう。
まとめ
いかがでしょうか。デジタル時代では、顧客をリードするスキルが変わってきます。
プロダクトを中心に据えて、セールスはとにかく動く。これも重要ですが、それでは高単価になった際に、あるいはサブスクリプションやSaaSのように継続課金のモデルでは失敗してしまうケースもあります。
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